第83回 知の拠点セミナー

第83回 知の拠点セミナー
講演1 「バイオバンク・ジャパン:生体試料と情報の共有が拓く個別化医療」 / 講演2 「質量で探る生体分子」

日時 平成31年2月15日(金) 18時00分~20時00分(※17時30分から受付開始)
場所 東京大学地震研究所1号館2階セミナー室 ※6月から開催場所が変わりました
(東京都文京区弥生1-1-1:アクセスマップ)南北線東大前駅徒歩約5分
プログラム
18:00-19:00
講演1 「バイオバンク・ジャパン:生体試料と情報の共有が拓く個別化医療」

村上 善則(東京大学医科学研究所 所長/教授)
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19:00-20:00
講演2 「質量で探る生体分子」

高尾 敏文(大阪大学蛋白質研究所 教授)
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講演1:「バイオバンク・ジャパン:生体試料と情報の共有が拓く個別化医療」

村上 善則(東京大学医科学研究所 所長/教授)

写真(講演者)

 がんを含む成人の大部分の疾患は、体質(遺伝因子)と環境因子の相互作用に加齢が加わって発生します。また、同じ病名の疾患でも、その成り立ちや分子機構が異なる場合が多く、個々に応じた予防対策や診断、治療法が必要となります。しかし、このような知見は個別の症例を診るだけでは得られず、多数の症例の検討により初めて明らかにすることができます。具体的には、一定の品質を有する血液や手術摘出組織などのヒト由来生体試料と、付随する臨床情報を大量に収集、保管し、個人情報を厳重に保護しながら研究者間に配布して、オープンに解析することが必要です。さらに、生活習慣は国や文化によって異なり、また体質の基本となるゲノム配列にも一定の人種差、地域差があることから、日本人に役立つ情報を得るためには、日本人症例の大規模解析が必須です。この目的で、2003年に文部科学省により「オーダーメイド医療の実現プログラム」が開始され、東京大学医科学研究所と理化学研究所が中心となり、全国50以上の病院と共同で、51疾患について、全国の疾患の約 1% に当たる27万人、44万症例の患者さんの血清、ゲノムDNA、臨床情報を収集、保管、配布する世界最大級の疾患バンク「バイオバンク・ジャパン」が構築され、発展して現在に至っています。ここでは、「バイオバンク・ジャパン」を基盤として得られた研究成果を中心に、がんや生活習慣病の新しい個別化予防、個別化医療の現状と展望をご紹介したいと思います。

講演2:「質量で探る生体分子」

高尾 敏文(大阪大学蛋白質研究所 教授)

写真(講演者)

 分子特有の物理量である質量は、物質を特定する上で有効な情報である。質量分析計は物質の質量を高感度かつ高精度で測定することができ、特に、タンパク質をはじめとする生体分子の有用な分析に汎用されている。生命科学の分野では、細胞や体液、組織といった複雑な生体成分の中のタンパク質や代謝産物を質量分析により網羅的に解析し、未知の分子や機能を探索する研究が盛んに行われている。生体内で複雑な機能を担うタンパク質は、ゲノム情報に基づいて作られ、機能するが、その一方で、ゲノム情報からは予想できない多様な修飾反応が生体内では起っている。しかも、それらの修飾反応は様々な生理現象に深く関わっている。また、異常な修飾反応は細胞のがん化とも密接に関連することがわかっており、それらを標的とした薬剤の開発も盛んに行われている。質量から構造を知ることができる質量分析法は、タンパク質のような様々な修飾を受けた複雑な構造を有する分子でも解析が行える強力な分析法といえる。本講演では、質量分析法のこれまでとこれからについて、幾つかの生体分子の構造解析例を紹介しながら述べ、また、病気の早期診断を目標に最近行っている尿中疾患マーカーの探索研究について紹介する。

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