第84回 知の拠点セミナー

第84回 知の拠点セミナー
講演1 「ライフコースにおける変化と不平等:東大社研パネルを用いた知見」 / 講演2 「少子化対策の推進に向けた提言:「くらしと仕事に関する調査(LOSEF)」に基づいて展開した諸研究の紹介」

日時 平成31年3月15日(金) 18時00分~20時00分(※17時30分から受付開始)
場所 東京大学地震研究所1号館2階セミナー室 ※6月から開催場所が変わりました
(東京都文京区弥生1-1-1:アクセスマップ)南北線東大前駅徒歩約5分
プログラム
18:00-19:00
講演1 「ライフコースにおける変化と不平等:東大社研パネルを用いた知見」

石田 賢示 准教授 / 大久保 将貴 助教(東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター
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19:00-20:00
講演2 「少子化対策の推進に向けた提言:「くらしと仕事に関する調査(LOSEF)」に基づいて展開した諸研究の紹介」

臼井 恵美子 准教授(一橋大学経済研究所
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講演1:「ライフコースにおける変化と不平等:東大社研パネルを用いた知見」

石田 賢示 准教授 / 大久保 将貴 助教(東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター

写真(講演者)

 東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターでは、研究者等が実施した社会調査データの二次利用に供する事業のほかに、各種のパネル調査(同一対象を複数時点にわたって追跡する調査)を企画・実施している。それらの紹介をおこなうとともに、パネル調査事業の核である若年・壮年者を対象とする調査を用いて、家族形成、社会意識、社会的・経済的生活状況の変化とその背景に関するいくつかの知見を報告する。そのうえで、パネル調査という方法論に特有の問題にも触れ、今後の展望について議論する。

講演2:「少子化対策の推進に向けた提言:「くらしと仕事に関する調査(LOSEF)」に基づいて展開した諸研究の紹介」

臼井 恵美子 准教授(一橋大学経済研究所

写真(講演者)

「くらしと仕事に関する調査(Japanese Longitudinal Survey on Employment and Fertility, LOSEF)」は、一橋大学・経済研究所のメンバーによる、日本学術振興会の科学研究費補助金による特別推進研究「世代間問題の経済分析:さらなる深化と飛躍」(研究代表者:高山憲之)と、基盤研究A 「くらしと仕事に関するパネル分析」、「 パネル・データに基づく経済厚生分析」(研究代表者:小塩隆士)に基づくアンケート調査です。少子化の要因を分析し、有効な対応策を追求、立案することを目的として、2012年以来、20-49歳の男女を対象に、2年毎に実施しています。

この調査を活用した諸研究の一端として、今回は、次の4つの研究を報告させていただきます。

 (1)母乳育児と、親の就業

母乳育児は、母と子の双方にとって、将来にわたる健康に数多くの利点があることが明らかになっています。しかしながら、母乳育児が、日本において、どのような人々がより積極的に行っているか、これまで十分に明らかにされてきませんでした。そのため、本研究では、子どもと母親の属性、及び、出産前後の母親の雇用形態や父親の仕事責任の変化が、母乳育児経験や授乳期間に与える影響について分析しました。分析の結果、子どもの出生時体重が重いほど、また、母親の学歴が高いほど、母乳育児が行われていることが分かりました。子どもが生まれた後、父親の就業形態がフレックスタイム制になると、母乳での育児が増え、かつ、授乳期間も長くなることが分かりました。このことは、時間のゆとりを得た父親が育児への協力をしやすくなることで母乳育児を促進していることが示唆されます。

(2)夫婦の家事分担と、妻の夫に対する満足度

本研究においては、夫婦の配偶者に対する満足度が、配偶者の家事・育児の分担と、どのように関係しているのかを分析しました。専業主婦の家庭の場合、妻が夫に対する満足度を高めるのは、休日における家事・育児負担の割合が多い場合であることがわかりました。一方、妻が就業している場合、夫が家事・育児分担をすれば、それが平日、休日どちらであっても、妻の夫に対する満足度を高めることが明らかになりました。

日本においては、家事・育児の外注は広く普及していません。また、男性の長時間労働が常態化していることが、男性が家事・育児を分担することを妨げている可能性があります。そのため、日本の生産年齢人口が減少しているなか、既婚女性の就業を促進する上においては、男性の長時間労働を減らすなど、「働き方改革」が有効であると考えられます。

(3)親の働き方と、子どもの家庭教育

本研究では、就業している母親と専業主婦の母親との間で、子どもと共に過ごす時間に差異があるのかどうか、また、母親、及び、父親が、子どもと共に(子どもに向き合って)過ごすことができているのかなど、親の働き方と子どもの家庭教育との関係を検証しました。具体的には、子どもの勉強を親が見ること、家庭での食事、幼い子どもへの本の読み聞かせなどと、父親や母親の就業との関連があるのかについて考察しました。分析の結果、母親がフルタイムで働いている場合、母親が子どもの勉強を見る頻度は下がるが、それを補うように、父親が子どもの勉強を見る頻度が高くなっていることがわかりました。しかし、両親合計では、子どもの勉強を見る頻度は全体としては低下しており、母親が子どもの勉強を見る頻度が下がる分を父親がある程度補ってはいるが完全には補っていないことがわかりました。また、父親が長時間労働の場合、子どもの勉強をみる頻度、及び、共に食事をする回数が少ないことがわかりました。従って、父親が長時間労働を改善し、仕事と生活の調和を図るならば、より一層子どもと共に過ごす時間が増える可能性があります。それによって、夫婦の家事育児の分担時間が母親の育児負担を軽減させる方向へ進展することになり、母親の就労を促進する可能性があるといえます。

(4)青年男女の妊娠知識と、将来の出産に対する主観的期待

女性の妊孕性は、年齢が高くなるほど低下します。米国では養子縁組が広く普及しており、子どもをもうけることができない夫婦でも子どもを持つことができますが、日本では米国のような状況ではないため、女性の加齢とともに、夫婦が子どもを持つ可能性は確実に低下します。本研究では、加齢とともに女性の妊孕性が低くなるという知識(特に、女性は30代と比べて40代の受胎率は低くなるという知識)の有無によって、子どもを持つ主観的期待確率に違いがあるかどうかを検討しました。分析の結果、子どもがいない40代前半の女性、及び、その年齢の配偶者をもつ男性のグループは、正しい妊娠知識がある人より、正しい妊娠知識がない人の方が、生涯にわたり子どもを持つ主観的期待確率が、10%程度高いことがわかりました。このことは、妊娠についての正しい知識の普及により、妊娠適齢期に子どもを産むことを促すことで、子どもを持つことができる夫婦が増え、結果として、日本の少子化に歯止めをかける一助となる可能性があることを示唆しています。

 

 

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