第56回 知の拠点セミナー

「講演1:新しいステージに向かう海洋エネルギーへの挑戦~安定電源の役割を目指して~
/講演2:先端的多色レーザー分光法の開発とその応用」

日時平成28年10月15日(土) 14時30分~17時00分
(※14時から受付開始のため、14時以降に東京駅直結の地下1階オフィスエントランス(新丸の内ビル前)にお越しください。)
場所京都大学東京オフィス
(東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング10階: アクセスマップ
プログラム14:30-15:40 講演1 「新しいステージに向かう海洋エネルギーへの挑戦~安定電源の役割を目指して~」  概要はこちら
            池上 康之(佐賀大学海洋エネルギー研究センター 副センター長・教授)
15:50-17:00 講演2 「先端的多色レーザー分光法の開発とその応用」  概要はこちら
            藤井 正明(東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所 教授)

講演の詳細はこちらでご覧いただけます (Yomiuri Onlineのページを開きます)

講演1 「新しいステージに向かう海洋エネルギーへの挑戦~安定電源の役割を目指して~」
  池上 康之(佐賀大学海洋エネルギー研究センター 副センター長・教授)

 佐賀大学海洋エネルギー研究センターは、日本で唯一の海洋エネルギーに関する共同利用・共同研究拠点である。地球表面の約70%を占める海洋には、波浪、潮流、潮汐、海流、表層海水と深層海水間の温度差が存在する。これらの持つエネルギーは、海洋エネルギーと称され、その量は膨大で、かつ、再生可能であるため、化石燃料の枯渇や地球の温暖化が危惧されている今日、人類の未来にとって有用なエネルギーと認識され、世界各国で、その利用技術の研究開発が進んでいる。特に我が国では、平成19年7月に施行された『海洋基本法』及び、それに基づく『海洋エネルギー・鉱物資源開発計画』によって、近年、海洋エネルギーの研究開発は、産官学が一体となって本格的に取り組む「新しいステージ」を迎えた。
 本講演では、当センターの基幹部門の一つである海洋温度差発電の研究教育及び地域との連携と国際的な活動について紹介する。
 海洋温度差発電(以下OTEC)は、海洋の表層と深層600~1000mの海洋深層水との温度差(約20℃)の熱エネルギーを利用して発電するシステムである。OTECは、太陽光発電や風力発電と異なり、地熱発電のように24時間安定的に発電できる再生可能エネルギーの一つとして期待されている。さらに、OTECは、清浄性、富栄養性に富んだ海洋深層水を利用するため、その複合利用(水素製造、海水淡水化、リチウム回収、漁場再生など)も注目されている(図1)。一方、OTECは利用できる温度差が従来の火力発電や原子力発電と比較して極めて小さいため、経済的な発電は長年困難とされてきたが、近年の新しい研究開発の成果によって新しいステージに入ったと評されている。
 オイルショック(1973年)以降、OTECの研究開発は欧米や日本で盛んに行われてきたが、その後、原油価格の下落とともに、日本以外のほとんどの国ではOTEC研究が停滞した。このような状況の中、唯一、弛まなく研究開発及び教育を積極的に続けていたのが日本である。
  2008年頃から米国及びフランスを中心に、中国、韓国でもOTECの研究開発が再び盛んになり、OTECの第二次ブームが来たと評されるようになった。特に欧米では、1MWや10MW級の国家プロジェクトなどが盛んに行われるようになった。その理由としては、環境問題などの社会的な変化とともに、近年の新しい技術開発の成果があげられる。さらに、OTECでは安定的な発電特性、複合利用による雇用創出、大型の産業育成なども期待されている。このような第二次ブームの頃から、世界的にも最も性能が高いと評された当センターの共同利用・共同研究装置の利用や訪問が海外から急増し、ここ10年で、約70カ国以上、1200人の海外の研究者の訪問があった。また当センターでは、高性能な新しいサイクルやプレート式熱交換器の開発で成果をあげており、これらの成果は、温泉水発電など他の分野でも利用されている。
 このような状況の中、世界に先駆けて、2013年6月、沖縄県久米島に100kW級のOTEC実証設備を設置し発電を開始、沖縄電力に系統連携された。以来、今日まで運転を行っている(図2)。これは沖縄県の事業であり、当センターは、本事業にこれまでの成果を利用して協力した。この発電の成功によって、OTECの研究開発は新しいステージに入ったと評されている。特に、OTECに適合している南太平洋、東南アジアやカリブ海からの研究者等の視察が多い。
 今日のような大きな国際的成果が得られたのは、ブームに左右されず、多くの関係機関の支えにより、「研究」と「教育」の両輪で弛まなく「知の継承」と「知の創造」ができたためと考える。
 近年の新しい展開としては、久米島におけるOTECの研究成果を核として、現在の約10倍の深層水を汲み上げ、1MWの海洋温度差発電と深層水をカスケード利用することにより、その建設コストを削減し、雇用創出が期待される地域創生としての「久米島モデル」が提案されている。その実現のために、佐賀大学や琉球大学、東京大学、民間企業、金融機関、関連省庁が参画した「国際海洋資源・エネルギー利活用推進コンソーシアム」が平成25年に設立され、平成28年一般社団法人化された。
 OTECの技術は、今日、世界をリードする我が国の純国産技術として注目されている。一方で、海外の追い上げも凄まじく危機感を覚える。今後は、より一層、ALL-JAPANとして、産学官が連携して、引き続きこの分野で世界を牽引していくことが期待されている。


図1 海洋温度差発電による複合利用

図2 久米島の海洋温度差発電実証プラントと佐賀大学海洋エネルギー研究センター久米島サテライト

講演2 「先端的多色レーザー分光法の開発とその応用」
 藤井 正明(東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所 教授)

 分光学とは光の吸収や発光により分子の構造や反応を研究する学問です。その歴史はニュートンが太陽光をプリズムで虹の7色に分離した時から始まったと言われ、量子力学の始まりにも強く関わってきた学問領域です。この分光学はレーザーと分子を極低温冷却できる超音速分子ビームの出現で大きく発展し、やがて弱い分子間力で形成される原子・分子の集合体(クラスター)の科学へと発展していきます。ノーベル賞の栄誉に輝いたC60(フラーレン)もここから端を発しておりますので現在のナノサイエンスも分光学から生み出されたということができるかと思います。
 レーザーを用いる分光の特色の一つは複数のレーザーを同時に用いる多色レーザー分光法であり、これによって分子に対して得られる情報が飛躍的に増えました。分子には様々な状態がありますが、例えば光を吸収して生じる励起分子の構造や反応を研究するために、第一のレーザーで励起分子を生成し、第二のレーザーにより励起分子の分子振動を赤外線レーザーで測定する、といったごく短時間生成している分子種の分光測定が容易に行われるようになってきました。こういった測定により、光を吸収した分子の周囲で溶媒分子が数ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)で配置転換する様子や、プロトンや水素原子が飛び出す様子を実時間で測定できるようになっています。こういった先端的なレーザー分光法とその測定例を紹介いたします。
 また、レーザー分光法は感度が極めて高く、分子選択性に優れていることから、分析法としての応用も進んでいます。講演ではレーザー分光の特徴を生かした焼却炉や自動車からの燃焼ガスリアルタイム分析装置や、大陸からの越境微粒子の「指紋」を捉えることができる微粒子履歴解析装置の開発と測定例に関しても紹介したいと思います。


図1 光励起により超高速で配置転換をする水分子の運動を捉えたスペクトルとそのシミュレーション

図2 3色ピコ秒波長可変レーザー分光装置