第54回 知の拠点セミナー

「ゲーム理論のフロンティア:人間社会と経済行動のよりよい理解を求めて」

日時平成28年3月18日(金) 17時30分~
場所京都大学東京オフィス
(東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階: アクセスマップ
講演者岡田 章
京都大学経済研究所 教授)
第54回セミナー 申込ページ (3月17日(木) 17時まで)
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 現代の人間社会では、政治、経済、社会のさまざまな要因が複雑に相互連関し、金融危機や経済格差、貿易、領土、地球環境を巡る国際的な利害対立など多くの問題が生じている。不確実性、リスク、市場メカニズムの不完全性、戦略的行動、さらに相互理解、コミュニケーション、信頼や倫理感の欠如などのさまざまな原因が、問題の解決を困難にしている。現代社会が直面する諸問題の解決のためには、人間、組織、市場、制度の相互連関とその帰結、特に、人々の持続可能な協調、協力を可能にする多様で重層的な協力メカニズムを科学的に探求することが必要である。
 ゲーム理論は、人間社会において相互に依存する個人、企業などの組織や国家の行動様式や意思決定を分析し、ミクロレベルの分析を通じて、社会の成り立ちやあり方を研究する学問である。ゲーム理論は、20世紀の代表的な数学者の一人であるフォン・ノイマンと経済学者モルゲンシュテルンの共同研究によって1940年代に誕生し、現在、経済学の理論的基礎を築くとともに、経済学のほとんどあらゆる分野に応用されている。
 講演の前半では、ゲーム理論の基本的な人間モデルと社会認識について説明し、基本的な概念としてナッシュ均衡点についてエスカレータの乗り方の事例を用いて紹介する。東京と大阪の人々の行動様式の違いから、複数均衡の問題を導入し、均衡が社会で定着する行動の進化メカニズムを説明する。
 講演の後半では、最新の研究トピックである「グループ形成と分配交渉」および「社会制度の自発的形成」について理論と実験による研究成果を紹介する。二つの研究は、研究プロジェクト「人間社会における協力と制度形成」のサブテーマである。経済社会が抱える諸問題の解決には利害対立を超えて協力が必要であり、研究の背景には、近年の経済格差、正規/非正規労働やTPP問題などグループ形成と分配を巡る深刻な利害対立がある。
 「グループ形成と分配交渉」の研究では、効率性と公平性の両立が困難であることを説明し、3人交渉ゲームのナッシュ均衡点として利己的戦略、公平戦略およびグループ内公平戦略について考察する。どのような経済環境でそれぞれの均衡が社会に定着するかを進化ゲーム理論を用いて分析する。2人グループの集団利得が一定値以上大きいと、非メンバーを分配から除外する非効率なグループ内公平戦略が進化することを明らかにする。さらに、理論成果は交渉ゲーム実験のデータから実証できることを説明する。
 「社会制度の自発的形成」の研究では、協力の制度的基盤として合意の遵守メカニズムの自発的形成の可能性を制度形成ゲームの理論および実験研究から考察し、従来の通説とは異なり、自由で利己的な個人から成る社会においても制度の自発的形成は可能であることを明らかにする。

 
参考文献
1. M. Kosfeld, A. Okada and A. Riedl, “Institution Formation in Public Goods Games”, American Economic Review 99, 2009, 1335-1355.
2. T. Nishimura, A. Okada and Y. Shirata, “Evolution of Fairness and Group Formationin Multi-Player Ultimatum Games,” DP #2015-06, Graduate School of Economics, Hitotsubashi University, 2015.