第41回 知の拠点セミナー

「必須化学資源の低環境負荷生産」

日時平成27年2月20日(金) 17時30分~
場所京都大学東京オフィス
(東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階: アクセスマップ
講演者原 亨和
東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授)
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 20世紀の初頭、ハーバー、ボッシュらが生み出した触媒プロセス「ハーバー・ボッシュ法」はアンモニアの大量生産を可能にし、人類を15億から70億まで増やした。人口増加の是非はともかく、アンモニアの大量生産がなかったら私達の多くは存在していない。また、アンモニアの生産はかってない程の「余剰食糧」を生み出した。余剰食糧の増加は食糧獲得に必要な人口を減らすと同時に他の事をする人口を増加させる。20世紀以降、社会が多様化し、科学技術を含めた諸々が拡大し続ける原因はアンモニアの大量生産とその結果の余剰食糧にある。
 ハーバー・ボッシュ法は文明を支え続ける必須化学資源生産プロセスの一つであるが、その消費エネルギーは人類が消費するエネルギーの2%に達するほど大きい。人口が増加の一途を辿り、エネルギー消費が加速することを考えると、エネルギー消費を減らしてより多くのアンモニアを生産することが急務となる。
 ハーバー・ボッシュ法の要は鉄を主成分とした固体の触媒である。この固体触媒が安定な分子である窒素分子を窒素原子に分解し、水素原子と反応させるためには高温高圧が必要である。これがハーバー・ボッシュ法の高エネルギー消費の一因となるが、人類はこの鉄触媒より効率的かつ実用的な触媒を見出すことができなかった。
 本講演では新材料「12CaO•7Al2O3 エレクトライド(C12A7:e-)」を使う新しいタイプのアンモニア合成触媒を紹介する。電子を取り込んだセメントと言うべきこの材料は低温・低圧で桁違いのアンモニア合成触媒能を発揮する。その高い性能はセメントの電子放出能力と水素原子の取り込み・放出能力に由来する(図1)。

図1