第7回 知の拠点セミナー

「オゾンを通してみる地球環境」

日時平成24年4月20日(金) 17時30分~
講演者水野 亮
名古屋大学 太陽地球環境研究所 教授)

 オゾン層は太陽系の惑星の中で地球だけに存在しています。皮膚がんなどの原因となる太陽からの有害な紫外線を吸収することにより我々地上の生物を守っていると同時に、成層圏という地球特有の大気の温度構造を作っている源です。宇宙でも地球以外に生命が存在する可能性がある惑星を探す上で、オゾンが観測されるかどうかが生命存在の手がかり(バイオマーカー)になるのではないか、とも言われています。
 オゾン層破壊が1980年代から問題となり、その原因は人が産業活動で放出したフロン等であることがわかりました。こうした研究結果を受け、1995年にはモントリオール議定書に基づき特定フロンの全廃が世界的に取り決められ大気中のオゾン破壊物質の減少傾向が確認されています。こうした取り組みは世界的な地球環境対策の最も大きな成功例と言えます。そしてオゾン層破壊問題はもう解決した、と思われがちです。しかし、オゾン層自体はまだ顕著な回復(=増加)には転じていませんし、南極のオゾンホールの規模もまだ明確な減少傾向を示しておらず、1980年代のレベルに戻るにはまだ数十年の歳月が必要とされると考えられています。また最近では、オゾン層破壊と気候変動との関係が注目されてきています。
 南極のオゾンホールによる成層圏の寒冷化が地球規模の循環に影響を与え、南半球の亜熱帯域の降水量に影響を与えている可能性などが指摘されています。また、昨年は北極でもオゾンの大規模な減少が起き、北極にもオゾンホール出現か、といったニュースが話題となりました。このようにオゾン層破壊の問題はまだ完全に解決されたわけではなく、今後数十年にわたってモニタリングを継続し、地球環境にどのような影響を及ぼしているか、さらに研究を進めていくことが重要です。
 演者はオゾンから放射される微弱な電波(ミリ波)を受信しオゾンの高度分布を導出するため、高感度の超伝導受信器を用いた観装置の開発とその装置を用いたオゾンおよびオゾン破壊に関連する大気中の物質の観測を行っています。現在それらの装置は北海道の陸別町、チリ共和国のアタカマ高地、アルゼンチン共和国南端のリオ・ガジェゴス、南極昭和基地で動いています。講演では、オゾン層破壊のメカニズムや最近の研究の動向、また電波を用いた観測装置の紹介とそれを用いた最新の観測成果等についてご紹介したいと思います。