第61回 知の拠点セミナー

「講演1:中赤外自由電子レーザーでできること/講演2:東アジア地域における発がん性大気汚染物質の環境挙動」

日時平成29年4月21日(金) 18時~20時  
場所京都大学東京オフィス
(東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング10階: アクセスマップ
プログラム18:00-19:00 講演1 「中赤外自由電子レーザーでできること」  概要はこちら
            大垣 英明(京都大学エネルギー理工学研究所 教授)
19:00-20:00 講演2 「東アジア地域における発がん性大気汚染物質の環境挙動」  概要はこちら
            唐 寧(金沢大学環日本海域環境研究センター  准教授)

講演1 「中赤外自由電子レーザーでできること」
  大垣 英明(京都大学エネルギー理工学研究所 教授)

エネルギー理工学研究所は、文部科学省認定共同利用・共同研究拠点「ゼロエミッションエネルギー研究拠点」として、エネルギー・環境・資源問題に対する国際社会の要請、ならびにエネルギー研究に関連する多彩な研究者コミュニティからの要望に応え、「ゼロエミッションエネルギー」の視点で、全国の研究者と共同利用・共同研究を実施するとともに、それらを担う研究者を教育・養成に努めます。「ゼロエミッションエネルギー」とは、エネルギー問題と地球環境問題を抜本的に解決する、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスや有害物質を極力排出しない、高い環境調和性を持った先進エネルギーの総称です。
この目的のために、本研究所では物理・化学・生物学の研究のためのユニークな実験施設を開発・整備し、これらの融合的な利用・応用研究を進めています。今回、このような施設の一つである、中赤外領域の波長可変かつ高出力のレーザーの利用研究を行う比較的小型の加速器を用いた施設の紹介をします。
この種の施設では、理化学研究所播磨のSACLAといった大型のX線自由電子レーザー装置が有名ですが、本研究所の装置は全長でも6m程度で、得られるレーザーも波長の長い、化学・分子振動レベルに合致するような種類のものです。
本講演では、装置開発及び共同利用・共同研究拠点活動を通じて行っている「ゼロエミッションエネルギー」に関する利用研究について紹介します。




講演2  「東アジア地域における発がん性大気汚染物質の環境挙動」
  唐 寧(金沢大学環日本海域環境研究センター 准教授)

近年,呼吸器及び循環器疾患による死亡者数は年々増加している。特に心血管疾患は既に死亡原因の第1位になっており,その環境要因として,発展の著しい地域で深刻化している大気汚染,特に大気浮遊粒子状物質(PM)との関連が疑われている。PMの中でも微小粒子状物質(PM2.5)は,その濃度が25 μm/m3上昇するに伴い,相対リスクが全死亡で1.16倍,心肺疾患死亡で1.25倍,肺がん死亡で1.37倍増加することが報告されている。PM2.5の有機画分に存在するベンゾ[a]ピレンに代表される多環芳香族炭化水素類(PAHs)の多くは,強い発がん性/変異原性/内分泌かく乱性を有する。さらに近年,キノン体は生体内での代謝過程においてレドックスサイクルを介して活性酸素種を生成し,酸化ストレスを誘発することから,PM2.5が引起す疾患の原因物質の一つと疑われている。従って,PM2.5の構成成分,主要発生源及び大気内挙動を明らかにすることは,地域住民の健康を守り,適切な環境保全対策を講じる上で極めて重要である。
一方,東アジア地域において,主に中国経済の急速な成長に伴ったエネルギーの大量消費と都市化の進行に起因した大気汚染及び黄砂問題は益々深刻化している。本講演では,演者らが構築した東アジア地域大気モニタリングネットワーク(日中韓ロ)を通じて得られた研究成果,即ち,日中韓ロの主要都市の大気中PAHsの濃度,組成,主要発生源及び越境輸送などの環境動態について紹介する。