第48回 知の拠点セミナー

「地球深部の理解はどこまで進んでいるのか」

日時平成27年9月18日(金) 17時30分~
場所京都大学東京オフィス
(東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階: アクセスマップ
講演者土屋 卓久
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター 教授)
講演の詳細はこちらでご覧いただけます (Yomiuri Onlineのページを開きます)

 地球は、46億年もの長きにわたりダイナミックに活動を続ける惑星です。地震や火山、移動する大陸、海洋底では現在でも日々新たなプレートが生産されています。これら地球表層の変動は、多くが内部の現象に起因しています。プレートテクトニクスはマントルの流動により駆動され、地球の磁場は外核の金属流体の対流によって維持されています。しかしながら地球深部は温度や圧力がとても高く(中心で約360万気圧、約6000℃)直接観測を行うことが不可能であり、いまだ人類未踏の未知の世界です。そのような極限的な環境では、かたい岩石も大きく圧縮され、物質は時として常識をはるかに超えた振る舞いを示します。地球の内部はどのような物質からできていて、それが地球の成り立ちや運動とどう関わっているのか?直接見ることのできない地球内部の姿を研究する方法、また地球深部の理解は現在どの程度まで進んでいるのでしょうか。
 地球内部に相当する極限的な温度・圧力での物質の振る舞いを研究する方法は、主に2つあります。1つは高温高圧実験と呼ばれる方法で、ダイヤモンドを押し合わせたり衝撃を加えたりして外側から力やエネルギーを加え、超高圧を作りだします。もう1つは理論的な方法で、量子力学などの物理学の基本法則に基づいて、超高温・超高圧下における物質の挙動をコンピュータで精密に再現します。複雑な構造や化学組成を持つ地球惑星物質を精度よく実験や計算することは技術的にとても困難です。技術開発を進めながら問題点を少しずつ改善し、少しずつ地球深部の理解を進めています。
 地球表面はプレートと呼ばれる硬い岩盤で覆われています。プレートは複数のブロックに分かれており、ゆっくりと水平移動して大陸移動などを引き起こしています。海洋のプレートは大陸のプレートと衝突すると、大陸のプレートの下に沈み込みます。太平洋プレートやフィリピン海プレートが北米プレートやユーラシアプレートの下に沈み込む日本は、その典型的な場所といえます。上部マントル(深さ10km程度~約660km)を沈んでいくプレートの様子は、深発地震の分布(和達=ベニオフ帯)から推定することができますが、深さ700kmを超えると深発地震も起こらなくなるため、プレートがその後どうなるのか、まだはっきりとはわかっていません。上部マントル内部を循環するのでしょうか、下部マントル(深さ約660km~約2900km)にまで沈んでいくのでしょうか。
 下部マントルの物質は上部マントルとは異なり、地上で実際に手に入れることはほとんど不可能です。そのため、下部マントルがどのような物質からできているかは、いまだはっきりとはわかっていません。そこで下部マントルの温度圧力条件のもとで、幾つかの岩石モデルを伝わる地震波の平均速度を詳しく解析し、観測結果を再現できる岩石モデルの特定を行いました。その結果、下部マントルは全域で上部マントルと同じパイロライト・モデルと呼ばれる化学組成を持つことが分かりました。このことは、上部マントルと下部マントルは一体になって運動している可能性が高いことを示唆しています。
 また、深さ2500kmを超える下部マントル最深部、核とマントルの境界領域では、地震の波が伝わっていく速度(地震波速度)が場所によって大きく異なる(日本など環太平洋地域の深部では地震波速度が速く、中央太平洋やアフリカの深部では逆に遅い)という特徴的な性質が観測されています。下部マントル最深部に存在すると考えられている鉱物の性質を調べたところ、相対的に温度が低い場合はポスト・ペロブスカイト相転移という現象が生じ、地震波が速く伝わることが分かりました。詳しく解析した結果、高速領域と低速領域の間に約500℃程度の温度差が存在する可能性が高いことが分かりました。これらの結果をまとめると、沈み込んだ冷たいプレートは、上部と下部が一体となって運動するマントル全体の流動にのって下部マントル最深部まで沈降し、周囲を冷やしていると考えられ、そうすれば地震波速度などの観測結果をよく解釈できることになります。
 現在は、同様のアプローチを外核(深さ約2900km~5150km)や内核(深さ約5150km~6400km)にも適用し、地球最深部の化学組成や運動の様子についても研究を進めています。