第32回 知の拠点セミナー

「多目的設計探査 ―飛行機から家電まで―」

日時平成26年5月16日(金) 17時30分~
場所京都大学東京オフィス
(東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階: アクセスマップ
講演者大林 茂
東北大学 流体科学研究所 所長・教授)
講演の詳細はこちらでご覧いただけます (Yomiuri Onlineのページを開きます)

 私たちの流体科学研究所では、様々な流れの研究を行っています。今回はその中でも、特にコンピュータを利用して流れを調べ、機械の設計に役立てるお話しをさせていただきます。
 流れといえば、身の回りの流れの代表は水や空気です。コンピュータで空気の流れを計算することと機械や飛行機がどういう関係にあるのかといいますと、実はそれらの性能を調べることに大きく関わっています。台風が来るとテレビのニュースで、わざわざキャスターを強風の中に立たせて、吹き飛ばされそうになっているシーンをよく映していますが、流れの中に物体を置くと、その物体は流れから力を受けます。飛行機の翼は、この力をうまく飛行機が空気中に浮く力に変換しているわけです。逆に、物体を動かすと流れを作ることができます。扇風機から始まって、エアコン、空気清浄機、掃除機、洗濯乾燥機と空気の流れを作る家電製品は、数多くあります。
 飛行機や機械の形が与えられたときに、それにある流れが当たるとどんな力が働くのかを、コンピュータシミュレーションによって求めることができます。世界で初めて飛行機を作ったライト兄弟の昔から、翼の模型に風を当ててどんな力がかかるかを測定してきました。しかし、より現実の条件に近づけようとすると、模型も風を作る装置も大型化して、コストも時間も大変かかるようになります。それをコンピュータに置き換える、流れのシミュレーション技術が1970年代から盛んに研究され、現在ではいろいろな機械の設計に取り入れられるようになってきました。
 ところで、形を変えると、それに働く力も変わるので、シミュレーション技術が発達すると技術者にはさらに欲が出ます。働く力、つまり性能が最高になるような形はどうなるかを、知りたくなったのです。この技術は「最適化」と呼ばれています。私たちの研究室では、この最適化を通じて、最適な設計とはどうあるべきかという設計ルールを発見する「多目的設計探査」の研究をしています。
 私たちの研究成果は、すでに現実の設計にも取り入れられています。三菱航空機が開発中の国産旅客機MRJは、三菱重工と私たちの共同研究で生み出されたシミュレーション技術で設計されています。また、日立の家電製品のファン設計にも取り入れられています。多目的設計探査の考え方とともに、こうした応用例について紹介したいと思います。