第23回 知の拠点セミナー

「スロー地震による巨大地震発生予測の可能性」

日時平成25年8月23日(金) 17時30分~
場所京都大学東京オフィス
(東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階: アクセスマップ
講演者小原 一成
東京大学 地震研究所 教授、副所長)

 南海トラフ付近では、沈み込むフィリピン海プレートと上盤プレートとの境界で約100〜150年間隔で巨大地震が発生することが知られています。このような地震は、プレート境界面が普段は固着し、ひずみが限界に達した時点で高速で破壊するために生じますが、破壊のスピードが通常の地震に比べて遅く、振動が微弱で揺れの周期が長いスロー地震と呼ばれる現象が、最近世界各地で次々と発見されてきました。そのひとつである深部低周波微動は、数Hzに卓越した微弱な振動が数日間も継続する現象で、防災科学技術研究所が1995年の阪神淡路大震災を契機として全国的に整備した高感度地震観測網によって世界で初めて発見されたものです。この微動は、東海から紀伊半島、及び四国にかけての領域で南海トラフ巨大地震震源域の深部側を縁取るようにプレート境界面に沿って分布しており、短期的スロースリップイベントと呼ばれるゆっくりしたすべりと同時に、約半年間隔で発生していることが明らかになりました。そのほかにも、九州と四国の間の豊後水道では半年かけてゆっくりずれ動く長期的スロースリップイベントという現象が6~7年間隔で起きており、これらの時定数の異なるスロー地震現象はそれぞれ棲み分けているものの、互いに影響を及ぼしていることも分かってきました。このような相互作用は、これらのスロー地震に隣接する巨大地震震源域に対しても、同様に働いていると考えられます。
 2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震の震源域周辺では、それまではスロー地震の存在が知られていませんでしたが、その後の詳しい解析により、本震の1か月前と2日前に発生した前震活動がいずれもゆっくりすべりが生じたことによるもので、そのすべりが本震の破壊開始点に向かって伝わったことが明らかにされました。もし、震源域のひずみ蓄積が限界に近い状態になっていたとすると、ゆっくりすべりの伝播によって地震発生場所に力が加わり、それが最後の引き金として巨大地震を発生させたとも考えられます。このように、スロー地震は巨大地震の発生に深く関わっている可能性があり、その意味でも、スロー地震を含めた、地下で生じる様々な現象を注意深くモニタリングすることは大変重要です。講演では、最近の観測によって明らかにされたスロー地震の性質と、巨大地震との関わり合いについてご紹介します。