第21回 知の拠点セミナー

「放射線を見る、はかる。放射線の安全管理」

日時平成25年6月21日(金) 17時30分~
場所京都大学東京オフィス
(東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階: アクセスマップ
講演者高橋 千太郎
京都大学 原子炉実験所 教授、副所長)

放射線や放射性同位元素(放射線を出す元素)は医療を初めとして、私たちの生活の様々なところで広く利用されています。また、一昨年の東電福島第一原子力発電所の事故にみられるように原子力利用により放射線や放射性同位元素が多量に発生します。
放射線は自然界から受けている程度の量では問題はありませんが、ある量をこえると人の健康に悪い影響(障害)を与えます。したがって、放射線による障害の発生を防止するために、放射線や放射性同位元素は適切に管理されなければなりません。それに関連する学問分野は放射線安全管理学とよばれています。
放射線を安全に管理する上で一番厄介なことは、放射線は人の五感に感じないということです。放射線は目に見えません、放射性同位元素に匂いはありません。したがって、放射線を安全に管理するための第一歩は、放射線を見ること、はかることです。今回のセミナーでは、初めに放射線(放射性同位元素)の基礎的な性質について分かりやすく解説し、次に、私どもの京都大学原子炉実験所で取り組んでいる放射線の安全管理に関わる最新の研究内容についてご紹介していきます。放射線は人の目には見えないのですが、ペットボトルのプラスチックを光らせていることを当実験所の中村助教らが発見しました。安価なプラスチック素材をつかって放射線をはかることができるのではないかと期待されています(図1)。また、谷垣助教らの若手グループは福島第一原子力発電所の事故の際に、カーナビに使われているGPSという位置情報システムと放射線検出器を組み合わせ、色々な場所での放射線量を簡便かつ迅速に測定し、携帯電話で測定データを送る装置を開発しました。現在、この装置は車や路線バスに搭載され、福島県や近隣県の道路上の放射線量の監視に広く使われています(図2)。
演者は長年、放射線の安全管理に関わる研究や実務に携わってきました。放射線を見ること、はかること、そしてそれを通して放射線を安全に管理すること、演者のこれまでの経験や知識を使って、分かりやすくお伝えできればと考えています。


図1 当実験所の中村らは、日常的に使われているペットボトルなどのプラスチックでも、紫外線や放射線を受けて発光する素材のあることを発見した。従来の高価な検出素子を使った放射線測定器に代わる安価な測定器の開発につながると期待されている。


図2 当実験所で開発された走行サーベイシステムKURAMA。上図は2011年6月の福島県の主要道路における放射線量率の状況。KURAMシステムは、その後、福島県や文部科学省、東京電力に導入され、活用されている。