第17回 知の拠点セミナー

「宇宙から見る地震」

日時平成25年2月15日(金) 17時30分~
講演者橋本 学
京都大学 防災研究所 教授)

 人工衛星搭載合成開口レーダー(SAR)は,地上に計器を置く必要がなく,雲があっても,写真のように面的に地表の情報を取得できる,という優れた特質があります.1990年代からSARを搭載した地球観測衛星が次々と打ち上げられ,全世界の地震や火山噴火・地すべり・地盤沈下などによる変動を捉えて来ました.中でも,2006年1月に打ち上げられた我が国の地球観測技術衛星「だいち」に搭載されたSAR(PALSAR)は,海外の衛星のものより長い波長の電波を採用することにより,深い植生で覆われた温帯〜熱帯地域や険しい山岳地域でも,情報を得ることができます.残念ながら2011年5月に運用が終了しましたが,その間数多くの地震に伴う地殻変動を観測しました.これらのデータは,それまでの地震像を一変させる極めて貴重なものです.
 我々日本のSAR研究グループも,ハイチ地震や東北沖地震などのデータを解析し,その鮮明な画像に目を見張って来ました.例えば,2010年1月12日のハイチ地震では,扇状地が隆起し山が沈む変動が捉えられました.この結果に基づいて断層運動を推定したところ,地表に見えている大断層ではなく,扇状地の地下に隠れていた断層が動いたことがわかりました(下図).
 本講演においては,PALSARなどのSARを用いた研究成果を紹介し,地震科学に与えたインパクトについて触れたいと思います.また,今年後半には,SAR専用衛星ALOS-2が打ち上げられる予定です.このALOS-2はじめSARを活用した研究の展望を述べたいと思います.


図.PALSAR画像の解析で得られたハイチ地震による地殻変動.左図は観測結果で,縞の間隔が狭いところほど変動が大きい.色が青→赤→黄→青の順番に,衛星からの距離が伸びる,すなわち地面が下がるか,東へ動く.色の1サイクルが11.8cmの伸び/縮みに相当します.白い破線は,既存の横ずれの活断層—エンリキロ断層—の位置.右図は,断層モデルとそれから計算される理論地殻変動.断層は北に傾斜していて,エンリキロ断層とは地下で交差します.