第14回 知の拠点セミナー

「生命を担う物質−蛋白質−の原子構造をみる」

日時平成24年11月16日(金) 17時30分~
講演者中川 敦史
大阪大学 蛋白質研究所 教授)

 人間も含めてすべての生物の生命現象には、「蛋白質」が重要な役割を担っています.生物の設計図である「遺伝子」がDNAの並びだけを使った1次元の情報しか持たないのに対して、蛋白質はアミノ酸がつながってできたポリペプチド鎖が三次元的に折り畳まれ、きちんとした立体構造をとることで正しい機能を持つことが知られています。複雑な生命現象も、分子レベルでみると分子と分子の相互作用・化学反応の積み重なりです。百聞は一見にしかずとも言いますが、蛋白質の立体構造を詳細に知ることは、生命現象を理解する重要な鍵となります。
 蛋白質のような複雑な分子の立体構造を原子レベルで詳細に決定するもっとも強力な手法の一つにX線結晶構造解析があります。蛋白質の原子構造は50年程前に初めて決定されましたが、近年のX線結晶構造解析法の進歩は目覚ましく、特に、放射光(シンクロトロン放射光)と呼ばれる強力な光(X線)が利用できるようになったことで、構造解析に要する時間が非常に短くなり、また、数多くの蛋白質が会合して働く巨大な生体超分子複合体の構造解析も可能となってきました。つまり、生命現象を原子レベルで理解することが可能な時代になってきたと言えます。
 蛋白質研究所は、世界最高性能を誇る大型放射光施設SPring-8に、生体超分子複合体のX線回折実験に最適化した専用の実験設備(ビームライン)を有しており、そこで様々な蛋白質や生体超分子複合体の構造生物学研究が行われています。本講演では、放射光の蛋白質結晶学への利用と生体超分子複合体の立体構造から明らかにされた生命現象の巧みさを紹介していきたいと思います。


蛋白研BLを使って構造解析された代表的な蛋白質


PDB登録数