第10回 知の拠点セミナー

「箙多様体のオイラー数を計算する」

日時平成24年7月20日(金) 17時30分~
講演者中島 啓
京都大学 数理解析研究所 教授)

 数学の分野の一つである位相幾何学(トポロジー)では、図形が持つ連続的な変形によって変わらない性質を研究します。18世紀の数学者オイラーが発見した、凸な多面体の(頂点の個数)-(辺の個数)+(面の個数)が必ず2になるという、オイラーの多面体公式は、位相幾何学の始まりの一つであると考えられています。より一般の図形に対して同じように個数の交代和を考えて定義されるオイラー数は、位相幾何学におけるもっとも基本的な概念の一つです。
 現代数学では、さまざまな分野が関係しあっており、位相幾何学は図形とは一見関係のない分野にも応用されています。たとえば、表現論とよばれている代数的な対象を研究する分野に位相幾何学を応用する研究は、幾何学的表現論とよばれています。従来の代数的な手法では得ることの出来なかった多くの結果を証明することができるようになっています。たとえば、数年前には、表現の指標とよばれる、基本的な量が、箙多様体とよばれる、ある図形のオイラー数と等しいということが証明され、それを位相幾何学の手法を用いて計算することができるようになりました。

 今回のお話しでは、オイラー数のさまざまな性質を紹介しながら、箙多様体のオイラー数をどのように計算したか、現在の研究の一端としてご紹介したいと思います。