第9回 知の拠点セミナー

「生きている言語を捉える挑戦:言語研究のパラダイム転換に向けて」

日時平成24年6月15日(金) 17時30分~
講演者中山 俊秀
東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 教授)

 生きている言語(社会生活の中で日常活発に使われている言語)はどの言語も例外なく変化しています。これは流行や社会変化を直接反映しやすい語彙に限ったことではなく、言語表現の組み立て規則(文法)も同じです。言語の文法が変化しているといってもなかなかぴんとこないかもしれません。確かに、日常の中で昨日と今日で動詞の活用ががらりと変わったり、文の組み立て方が全く目新しくなったりすることはありません。
 でも、言語のシステムは確実に変化しています。そのことは、過去に書かれたものを読んでみればはっきりと感じられます。同じ日本語でも、100年もさかのぼればかなり理解しにくいですし、1000年前ともなるともはや外国語といってもいいほどです。
 いったい、言語の変化はいつ、どのように起こっているのでしょうか。
 従来の言語学の研究では、この歴史的変化の過程は言語のシステムとは別の次元の現象として区別してきました。言語を、変化のプロセスとは切り離し、変化のない固定的なシステムとして考えてきたのです。
 しかし、最近、会話の分析などを通じて我々が毎日行っているコミュニケーションの現場の実態が明らかになってくるにつれ、実は言語システムは常に揺れ動いていて、これまで考えられていたほど厳密に機械的な体系でも固定的な体系でもないことがわかってきました。そうした言語の動的な実態を真摯にうけとめると 、固定的なシステムとして言語を捉えてきたこれまでの言語研究の枠組みを根底から考え直さざるを得なくなります。
 今回のお話では、我々のコミュニケーションの中で、言語がいかにゆれうごいているのか、変化しつつあるのかを見つつ、常に変化する体系として言語を捉え直すことによって今進みつつある言語研究のパラダイムの大きな転換のありさまをお話しします。