第6回 知の拠点セミナー

「病気と遺伝子:心の病気のゲノム解析とがん遺伝子治療を例に」



日時平成24年3月16日(金) 17時30分~
講演者服巻 保幸
九州大学生体防御医学研究所 教授)
谷 憲三朗
(九州大学生体防御医学研究所 所長)

 私たちを悩ましている病気にはどのような遺伝子が関わっているのでしょうか?また、遺伝子を使って病気をなおすことはできるのでしょうか?遺伝子の関わる病気には、血友病により代表されるような一個の遺伝子の機能異常により起きる単一遺伝子病と、糖尿病により代表されるような複数の遺伝子と環境因子との相互作用により起きる多因子病があります。特に多因子病は比較的頻度が高く、単一遺伝子病のように親から子へ病気自体が遺伝するわけではありませんが、病気への罹りやすさ(疾患感受性)は遺伝します。この基となる遺伝子(疾患感受性遺伝子)を明らかにすることは診断や治療、さらには予防法を確立する上で重要なことです。
 ここでは先ず多因子病として、心の病気のなかでも100人にほぼ1人の頻度で見られる統合失調症を例にして、ゲノム解析による疾患感受性遺伝子探索の実際と、見い出した遺伝子についての変異マウスを用いた研究を紹介します。
 次に、遺伝子を使った治療法開発の現状について、現在日本人の3人に1人が死亡しているがんを対象とした治療法について紹介します。このいわゆる遺伝子治療法は、既存のがん治療法と異なる効果が期待できることから、現在さまざまなアプローチによる開発研究が進んでいます。
 以上から、病気を対象とした遺伝子を巡る研究の現状や問題点をお伝えできればと思います。


図1. 統合失調症のグルタミン酸伝達異常仮説


図2. 現在用いられている遺伝子治療法の概略