第5回 知の拠点セミナー

「日本の古風景、変容する水辺」

日時平成24年2月17日(金) 17時30分~
講演者榎原 雅治
東京大学 史料編纂所 所長)

昔、日本はどんな形をしていたのでしょうか。
「昔」、といっても、日本列島をナウマンゾウが歩いていたような超古代でもなければ、髷を結って歩いていていたような近い過去でもありません。500年から800年ぐらい前、織田信長や豊臣秀吉が登場する以前の、中世と呼ばれている時代です。イメージの乏しい時代かもしれませんが、現代の日本に住む私たちにも理解できる習慣や感性を身につけた人々が生きていた時代です。

「形」、といっても、国家体制とか社会秩序といった類の難しい話ではありません。海岸はどんな風景だったのか、あるいはどんな川が流れていたのかという、きわめて即物的な話です。

日本列島では、江戸時代以来、各地で大開発が展開してきました。災害による地形変動もありました。そうしたことの起こる以前の日本の水辺はどのような姿だったのでしょうか。列島各地を旅した中世の人々が書き記した旅行記や書類、文学作品などの史料を主要な題材に、地質の調査結果や潮汐計算の結果など科学的データの助けも得ながら、この時代の日本がどんな形をしていたのかを考えてみます。見えてくるのは、現代からは思いも寄らない風景だと思います。その風景の中で人々はどのような生業を営み、どのように自然と付き合っていたのでしょうか。また、その風景がどのようにして変貌していったのか、そして変貌したことによって、私たちは何を得、何を失ったのかについても考えてみたいと思います。 100年ほど前の写真を2枚掲げておきます。これはどこでしょう。おわかりですか?