第1回 知の拠点セミナー

「ウナギ、この不可思議なるもの」

日時平成23年10月21日(金) 17時30分~
講演者塚本 勝巳
東京大学 大気海洋研究所 教授)

 不可思議だから面白い。謎が深いからよけい知りたくなる。ウナギはそんな生き物だ。細長いヘビのような体つき,どこにあるのかはっきりしないウロコやエラは,この生き物が魚であることさえ忘れさせる。彼らが海の彼方から何千キロも旅してやってきたことを知る人は意外と少ない。しかし,ウナギの産卵場研究はここ数年で目覚ましい進展をみせた。日本から数千キロ南のマリアナ沖の海底山脈でウナギの卵も親魚も見つかった。長年の謎だったウナギの出生の秘密はいま解明された。
 一方,川や沼に住むウナギは,昔から人びとに大変身近な存在だった。全国各地の縄文時代の遺跡からウナギの骨が出土する。ちょっと風変わりな形態や行動を示すこの生き物は,貴重な食べ物として利用されているうちに,いつのまにかひとびとの生活に入り込み,「うなぎのぼり」や「うなぎの寝床」などの慣用句を生んだ。また文学や浮世絵,工芸や落語の題材として表現された。さらに伝説,信仰の対象ともなって畏敬されるようになっていった。単に地球上の一生物に過ぎなかった「ウナギ」は,人とウナギの距離が縮まるにつれ,食べ物の「鰻」から,文化の中で息づく「うなぎ」へと進化したのだ。
 自然科学におけるウナギ研究の最新の成果に加え,ウナギに関する社会科学的・人文科学的側面をも合わせて,ウナギを丸ごと理解したい。この不可思議で,それでいて愛すべき生き物とともに,末永くこの星で暮らしていくために。

鰻絵馬
京都三嶋神社の鰻絵馬 豊穣,子孫繁栄を祈願する

ニホンウナギ卵
2011年6月28日-29日にかけて採集されたニホンウナギ卵
表紙画像
参考文献 写真集
「旅するウナギ 1億年の時空を越えて」
黒木真理・塚本勝巳著
東海大学出版会
(ハードカバー,276ページ,3800円)
(講演に先立ってぱらぱらと目を通しておいていただけると講演内容の理解が一層進む)