第37回 知の拠点セミナー

「日欧共同衛星計画 EarthCARE:能動型センサが拓く雲研究の新展開」

日時平成26年10月17日(金) 17時30分~
場所京都大学東京オフィス
(東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階: アクセスマップ
講演者岡本 創
九州大学 応用力学研究所 副所長・教授)
講演の詳細はこちらでご覧いただけます (Yomiuri Onlineのページを開きます)

 雲は、氷や水の相の多数の粒子から構成され様々な高度に存在し、粒子の大きさや雲の水の量は場所や時間で大きく変化します。これらの巨視的・微視的な物理特性を通して、雲は地球の放射エネルギーの収支や水循環を支配しています。このような雲の重要性にもかかわらず、その特性を地球全体で把握することには困難があり、雲の特性の生成や消滅のメカニズムの理解は十分ではありませんでした。このような事もあり気候変動予測において、雲は主な不確定性要因であるとされています。
 地球観測衛星に搭載され、リモートセンシングに利用される測器は、受動型と能動型に分ける事ができます。前者は太陽光の雲による散乱や雲からの熱放射等を、視線方向で積分したものを測定します。このような受動型センサでは、深さ方向の情報を得ることが原理的に困難であり、雲の多層構造や雲の下の降水の様子等を正確に把握できませんでした。これに対し能動型センサは、自ら発する電磁波が雲の粒子によって後方に散乱され戻ってきた信号の強さを測定します。電磁波を発信してから戻ってくるまでの時間も測定できるので、雲までの距離がわかることになります。様々な時間で測定すれば雲内の別の場所からの信号を分けることができ、つまり雲の深さ方向の情報を得ることが可能になります。
 能動型センサを地球観測衛星に搭載した雲の観測は、2006年のCloudSat衛星とCALIPSO衛星の打ち上げで始まりました。CloudSatは94GHzの雲レーダが搭載され、CALIPSOでは可視波長と近赤外波長の2波長の観測が可能なライダが運用され、可視波長では偏光の機能も有しています。このアメリカを中心に打ち上げられた2つの衛星は、高度約700kmの極軌道を周回し雲の3次元分布を観測しています。これらのセンサを単独で利用するだけでは、雲の物理特性を把握することは十分ではありません。このため雲レーダやライダを複合的に利用する手法が開発され、詳細な雲の物理特性が抽出されるようになり、衛星データの全球解析に利用されるようになりました。
 これら先行する地球観測衛星の能力を大幅に高める試みとして、ドップラー機能を有する雲レーダを搭載するEarthCARE衛星が計画され、2016年に打ち上げが予定されています。ドップラー雲レーダは、宇宙航空研究開発機構と情報通信研究機構が開発しています。ライダは雲レーダで検出できないような薄い雲も検出できる一方で、厚い雲になると信号が強い減衰を受けて雲頂部分しか観測できない場合があります。このような雲に対しては、後方散乱の信号強度の情報とともにドップラー速度を解析に利用することが非常に有効です。日本とヨーロッパの共同開発の衛星EarthCAREには、この世界で初めてとなるドップラー雲レーダと、紫外波長を利用する高分解能ライダ、多波長イメージャ、そして広帯域放射収支計の計4種類のセンサが搭載されます。ドップラー雲レーダは日本で、他の3つの測器はヨーロッパで開発しています。解析アルゴリズムは、日本とヨーロッパで協力しながらそれぞれ開発を行っています。日本側では九州大学、国立環境研究所、東海大学、東京大学が担当しています。EarthCARE衛星の飛行高度は約400kmとCloudSatより低く、またアンテナのサイズもより大きいものになるため、雲検出の感度は1桁程度大きくなります。EarthCARE衛星ではこれらの新しい機能や解析手法を駆使し、飛躍的に高い精度での雲や降水の物理特性の把握、雲の関連する対流活動について詳細な情報をもたらし、放射収支や水収支の見積もりも大きく前進するものと期待されています。

図1
 
ドップラー速度を観測できる94GHz雲レーダと、高分解能ライダ等4種類の観測センサを搭載する
日欧共同衛星 EarthCARE (イメージ ESA提供)


図2
 
EarthCARE衛星で観測される雲と降水のドップラー速度。
CloudSat衛星とCALIPSO衛星の解析結果からシミュレーションしたもの。