第35回 知の拠点セミナー

「海洋が生み出す鉱物資源」

日時平成26年8月22日(金) 17時30分~
場所京都大学東京オフィス
(東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階: アクセスマップ
講演者臼井 朗
高知大学 海洋コア総合研究センター 教授)
講演の詳細はこちらでご覧いただけます (Yomiuri Onlineのページを開きます)

 地質現象は表層地球環境における物質とエネルギー移動の原動力である. 特に,海洋では,地球規模・地球史スケールの物質循環の結果,ある種の有用元素や鉱物が濃縮することが知られている. 最近の研究によれば,世界の海洋底には,陸上に匹敵する鉱床が広く分布し,同時に資源形成が現在も進行中であることがわかってきた.
 2000年以降の金属資源の急激な需要増を背景に,深海底の鉱物資源は,陸上資源の枯渇・不足を救う有力候補として期待が高まっている. 「レアメタル」という言葉とともに,一部では近未来の商業開発さえ現実視されている. 一方で,海底鉱物資源と地質現象との関わりなどの科学研究は1960年代に始まり,80-90年代には実質的な研究が中断した時期があった. 近年,国立の研究調査機関や大学等が中心となった調査航海の機会が徐々に増え,また,先端技術を活かした,現場調査,試料採取の機器・装備に加えて,高精度,迅速な試料分析装置等の導入によって,海底鉱物資源の実像が急激に明瞭になりつつある. 徐々に,資源分布の実態,時空的偏在性の要因解明,深海環境との関連解明などについて,さらに深い科学的理解が求められている.
 本講演では,演者らが参加した,潜水艇調査,探査ロボット探査,深海ボーリングなどの現場体験,研究実績を踏まえながら,海底のレアメタル資源研究の現状をお伝えする. そしてその多様性,資源形成の不思議さ,開発への道程などについて,地球科学の立場からの話題提供をしたい.
 特に,昨年7月に国際海洋法に基づく我が国の探査鉱区が認定された(コバルトリッチ)マンガンクラスト鉱床にかかわる調査と研究の成果を中心に紹介し,予想外に広い分布,仮説であった成長プロセスの検証,ナノスケールの性状把握の努力などを紹介する. 将来の商業採掘を目指すのであれば,拙速な採掘技術開発よりも動的環境を含めた深海底近傍の科学的実態の解明が近道ではなかろうか? いまこそ,資源開発の現場への「知」の結集が望まれる.