第33回 知の拠点セミナー

「生活環境におけるカビと健康被害」

日時平成26年6月20日(金) 17時30分~
場所京都大学東京オフィス
(東京都港区港南2-15-1 品川インターシティA棟27階: アクセスマップ
講演者亀井 克彦
千葉大学 真菌医学研究センター 臨床感染症分野 教授)
講演の詳細はこちらでご覧いただけます (Yomiuri Onlineのページを開きます)

 私たちの生活はさまざまな微生物に囲まれていますが,その中でもカビは最も多く生息している生物の一つです. 古くから人類はカビと一緒に生活してきました.特に日本人は発酵食品を始めさまざま分野でカビを利用してきており,私達の生活には無くてはならないものといえます. 発酵の材料としてなじみがあるだけでなく,食品やあるいは掃除が行き届かないところに発生しているカビも私達にとって見慣れた存在です.一見,このように人間の隣で静かに人間と「共存」しているように見えるカビですが,カビはただじっとしているだけではありません. カビの特徴の一つは大量の胞子を作って空気中を漂うことです.このため、私たちは知らず知らずに毎日大量のカビを吸いつつ人生を過ごしています. 毎日暮らしている家屋や会社などにも数多くのカビが生息していますが,その大部分は見ることが出来ません. しかし、実はこの「見えないカビ」は大きな問題です.部屋の条件によって異なるものの,私達は空気中に浮遊しているカビを毎日10,000個程度吸っていると考えられます.
 カビは高度の進化した生物でさまざまな能力を持ち,その中にはヒトに対して深刻な悪影響を及ぼすものも少なくありません.カビによる病気としては,気管支喘息などのアレルギーが良く知られており,また感染症としては「水虫」が有名ですが,実はカビによる病気にはこれ以外にも深刻なものが数多くあります. もともとカビはヒトの細胞に非常に類似した構造と機能を持っており,治療薬の開発が難しいのですが,このためカビが内臓に侵入すると非常に深刻な事態になります.カビが内臓に侵入するというと,非常に特殊な人や,特殊な環境に置かれた場合にだけに起こることのように思いがちです. たしかに東日本大震災で津波に襲われた方の中には少なからずカビの肺炎でなくなった方がおられます. しかし、実際の患者さんの中には必ずしも「特別な状況」でなく,むしろごく普通に生活しておられた方が数多くおられます.事実,高齢化はカビの感染にとってのハイリスクであり,今後カビにかかりやすい人は確実に増加していくと予想されます. さらに,日本ではあまり知られていませんが,海外にいる一部のカビは非常に感染力が強く,現地では毎年多くの患者が発生しています.最近では,カビの吸入と,一見無関係と思われる病気との関連を示唆するデータも見えてきました.
 このセミナーでは,身近な愛すべき生物であるカビのもう一つの側面について,感染症を中心にヒトへの健康被害という観点からお話したいと考えています.