第15回 知の拠点セミナー

「イノベーションと基礎研究のための特許とは?」

日時平成24年12月21日(金) 17時30分~
講演者青木 玲子
一橋大学 経済研究所 教授)

 アップルとサムスンの特許訴訟は収束する兆しは見えません。多分、スマートフォン市場が拡大し続ける限り、訴訟は続くでしょう。本来、特許や著作権といった知的財産は、企業のイノベーションへの投資を促すために設けられた、国家による期限付き排他権です。しかし、企業は戦略的にこの権利を利用します。そこで、特許や著作権制度は企業の戦略的行動を考慮して制度設計をする必要があります。十分に企業行動への影響を考慮していないと、特許が意図しなかった結果をもたらす場合があります。例えば、アップルとサムスンの終わりのない戦いは、これまでの特許制度が新しい技術に対応していない証拠かもしれません。企業や消費者行動が制度の相互作用であることは、国家が直接イノベーションへ投資をする科学技術政策でも同じです。制度設計にあたっては、企業や消費者のインセンティブを考える必要があります。本セミナーでは、企業の戦略的行動と法律や政策の分析に基づいて、望ましい制度を模索します。
 特許によって情報の独占が可能になるので、一見すると自由な考えの交換が必要な基礎研究と特許はなじまないようにもみえます。しかし、2012年のノーベル生理学・医学賞受賞の受賞が決まった山中伸弥教授は非常に積極的に特許を取得しています。これは、特許制度の第一の目標は、社会の新しい知識創出とイノベーション促進であるからです。特許は基礎研究の促進に活用可能な制度なのです。そのからくりと、基礎研究のための知的財産の制度設計も考えます。