第8回 知の拠点セミナー

「和漢薬の効果を科学する」



日時平成24年5月18日(金) 17時30分~
講演者濟木 育夫
富山大学 和漢医薬学総合研究所 所長、病態生化学分野 教授)
柴原 直利
(富山大学 和漢医薬学総合研究所 漢方診断学分野 教授)

 西洋医学においては、関節リウマチやアレルギー、更年期障害などといった「病名」が診断され、それに基づく治療が行われている。一方、漢方医学では四診(望診、聞診、問診、切診)とよばれる診断法に基づいて一人一人の患者の体質や症候を含む、いわゆる「証」を定め、患者ごとに応じた治療(個の医療という、西洋医学的にはテーラーメード医療)を行っている。すなわち、気虚、女レ戟A水滞といった病態の診断を行なうことにより、治療の方向性と使用する漢方薬が決定されている(これを方証相対という)。たとえば、血流の停滞に相当する微小循環障害およびそれに伴って発生する様々な病理学的変化や症候を、漢方医学では女レ撃ニ呼び、そのような病態が様々な疾患で見うけられる。しかしながら、「証診断」には血液生化学検査のように、客観的な数値化された検査指標がなく、漢方医学の体系を熟知し、長年にわたる経験も必要とされることから、漢方を専門としない医師にはこの「証」の概念はつかみにくい。したがって、「証」が西洋医学的に理解されることが、漢方医学がより身近なものとなり、実際の治療に役立てることができるものと考えられる。
 ここでは、生薬を組合せて処方し多成分からなる漢方薬の中の補剤である十全大補湯などの処方を用いたがんの転移抑制とその抑制の仕組みに関する基礎的な研究を紹介するとともに、漢方医学における証診断について、漢方薬を用いて治療した実際の臨床例を通して紹介することにより、漢方薬や漢方医学に対する理解を、さらに深めていただければと思っております。